朝井リョウの「何者」を読んだ

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今日は(今日も)ライトなコラムを。
昨年末に朝井リョウの「何者」を読んだ。今の就活というものがわかるとても良い本だ。しかし、読後すぐに「何となく形容しがたいモノ」を感じていた。それが直木賞を受賞したと聞いて、色々なものが繋がってきたので、そのことについて書こうと思う。

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本書は、大学生5人の就職活動に関するあれこれが舞台となっている。その舞台にTwitterが絡む所が今を切り出している所だ。Twitterを道具として、5人の心理を「巧に」描いている。「説明会」「面接」「仲間の内定」といった、就活(就職活動)特有のイベントとその際の微妙な心理状態が、「なんだかわかるなぁ」という表現で書かれている。

本書を読んだ際に感じた「形容しがたいモノ」というのは、この巧みな心理状態を「今の就職活動を経験していない私」にも「わかる」表現で書かれていた事だ。いや、わかるように「仕向けられた」のかも知れない。ようは、「わかった気」にさせられたと感じたのだ。

私は、現在30歳。就職活動をした際に「リクナビ」はあったが「Twitter」はなかった。「mixi」やソーシャルゲームになる前の「GREE」も出始めのような時期であった。だから、ソーシャルメディアが絡む就職活動というのは、なんとなく想像はできるが、体験している訳ではない。あくまで想像の域を出ないわけだ。

それが、本書を読むと、「わかって」しまうのだ。これは非常に不思議だった。追体験した気にさせられたからだ。なぜ、そんな事が可能なのか。もしかすると、著者は初めから同世代の人の事を同世代に向けて書いた訳ではなく、同世代の事を異世代に向けて書いていたのではないだろうか。

本書が「直木賞」を受賞したという事を知り、上記の事が自分の中で腑に落ちた。そして、改めて朝井リョウ氏は力のある作家だなと感じた。狙ってたんだろうなと思ったからだ。

この思いは、同時に以前経験したある事を思い出させてくれた。それは、ある上司に可愛がられていた先輩の話だ。

ある先輩は、年の離れた上司や顧客とカラオケに行った時に、次のような事を教えてくれた。

カラオケでは、上司は気を遣って新しい歌を歌えというが、正直に新しい歌なんて歌うなよ。新しい歌を歌いますといって、誰もが知っているような歌手の5年くらい前のヒット曲を歌うのがちょうど良いんだ。そして、上司に、「俺でも新しい歌がわかるな。まだまだ若い奴らの事がわかるな」という気持ちにさせるんだ。

こう書くとどうもイヤらしいように感じるし、聞いている時はイヤらしいなと思っていたが、この人は本当に上司に可愛がられていた。こういうことが自然にできてしまうのだ。そして、真似することは難しいなと体験的に思ったものだ。

本書には、そんなある種の「配慮」があるのではないかと感じた。だからこそ、若い人達の事が「わかった気」にさせられるのではないだろうか。

このように考えると、この本は若者向けのものではない。我々を含むおっさんおばさん向けの本なのだ。また、この本を「若者向けの本」と形容する事は、著者の仕掛けた罠にまんまと引っかかったのかも知れない。かくいう自分は、まんまと引っかかってしまった。

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この記事を書いた人

産業能率大学情報マネジメント学部 准教授 橋本諭(はしもと さとし)。
研究テーマは、ソーシャルビジネス、人材育成を扱っています。

橋本 諭

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