青学 箱根駅伝の優勝の秘訣は心理的安全? 2016年体験型ゲーム報告書

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はじめに

私たちゲーム班は今回の文化祭ではゲーム作りやゲームの脚本などに携わりました。私たちの体験型ゲームを作った目的は、ゲームを通じてチームビルディングに必要な要素を体験者に学んでもらうことが目的でした。今回ゲームを通じて学んでほしかったことは「心理的安全」という要素でした。

心理的安全という言葉になじみのない人は多いと思います。私たち自身今回のゲーム作りで初めて聞いた概念でした。一体心理的安全とは一体どの様な概念なのでしょうか。

心理的安全とは…

「ひとことで言うと、心理的安全があれば、厳しいフィードバックを与えたり、真実を避けずに難しい話し合いをしたりできるようになる。心理的に安全な環境では、何かをミスしても、そのためにほかの人から罰せられたり評価を下げられたりすることはないと思える。」(エイミー・C・エドモンドソン.2014)

これはハーバードビジネススクール教授のエイミー・C・エドモンドソンさんの著書の中の一文です。罰を受ける事や非難される不安があると、自分の思っていることや気になっている事が言えないということはチームの中にいるとあると思います。そのようなプレッシャーがない状況が心理的安全です。つまりチームのメンバーが自然体でいられる雰囲気の事だと考えられます。

組織の中に所属していると評価を受けるということはほとんどだと思います。職場の場合、その評価によって私たちは昇格や昇給などの待遇を受け、スポーツチームの場合、監督や周りの評価によって試合に出場できるかできないということが決まってきます。従って、当たり前の事ではありますが、周りからの評価というのはとても大切なことで、その評価を下げる失敗をなるべく避けていくことも自然なことだと思います。

しかし、医療の現場などの人の命を扱う現場を考えてみます。例えば手術中に気になる点があったとしても、失敗や非難されることを恐れ自分の意見が言えなかった。その気になる点というのは実は患者の命を左右する問題だった。もしもそうならばその遠慮によって最悪の場合患者が亡くなってしまうということがあるかもしれません。非難や評価を下げられることを恐れて何も意見せず患者が命を落としてしまったら元も子もありません。

この様な状況では、他のひとから罰せれる事、評価を下げられることに対する恐れがあり意見が言えないというのは問題です。この様な環境では、心理的安全が必要です。

青山学院大学陸上部から見つけた心理的安全

先日の箱根駅伝で史上6校目の三連覇を果たした青山学院大学陸上部。青学陸上部はハッピー大作戦などキャッチーなフレーズを使った作戦など他の大学と変わったスタイルの方針や指導で注目を集めています。
その変わったスタイルの中で私たちは青学陸上部の中に心理的安全を発見しました。心理的安全があると考えられる文章がこちらです。

『指導者になってからも、選手を奴隷のように服従させる方法は排除した。自分が住み込む学生寮でも、掃除など雑用は学年関係なく、持ち回りでやる。逆に4年生が率先してやれと指導する。今の寮の門限は22時だが、みんな21時にはいる。先輩後輩の徒弟制度はない。寮がアットホームで楽しいから、外に遊びに行かなくていい。学年を超えて風通しの良い組織になっている。
支配型の指導法では長期的な発展性はない。自分は1年生にも意見を言わせる。ただ「ハイッ」と指示を待つだけの学生はいらない。選手が自分の言葉を持ち、自主的に考え、行動できるような指導を心掛けている。今の学生はゆとり世代といわれるが、理屈を教えれば、理解して自ら進んで向上する。最近は何か問題が起きても、学生たち自らが問題を洗い出し、解決へ努力するようになってきた。今回の結果も組織が成熟してきた結果だと思っている。』(日刊スポーツ.2017)

こちらは青学陸上部監督の原晋さんの記事です。原さんは心理的安全という言葉を使っていませんでしたが、私たちはこの記事を読んでこれはまさしく心理的安全のあるチームだと思いました。その理由は『一年生にも意見を言わせる。ただ「ハイッ」と指示を待つだけの学生はいらない。』という文にあるように一年生だから言われたことをやるだけではなく、自分の意見を持ち、自分が今何をすべきで、どうしたらその問題を解決できるのか、など問題に対して受動的にならず常に能動的に動いています。そうすることで勝利するためには何をすべきなのかという考えになりチームが良い方向に向かって動いていると思います。

また、一年生が意見を言える環境というのは一年生だけで作れるものではなく、二年生や上級生も一年生に対して意見を言う事を促しているからなのではないかと思います。また、支配型の指導方法では長期的な発展はないと述べていましたが、具体的に支配型の支配方法とその問題について述べている文章があります。

「陸上界の発展を阻んでいる壁のひとつが、旧態依然としたトレーニング方法だ。男女問わずに、先ず指導されるのが躾であり、監督やコーチといった指導者への服従である。口答えは許されず、場合によっては体罰も加えられる。選手たちの自主性が奪われ、根性論や精神論を叩きこまれる。
とくにマラソンや長距離走の場合、強化のベースにあるのは修行僧のイメージだ。指導者からは『練習中は笑うな』『しゃべるな。黙っていろ』『監督の言う事を聞け』『地味な服を着ろ』などの指示を受ける。しゃべることもタブーで、食べること、寝ること、風呂に入ること、すべてが修行であるとされる。
私の現役時代、似たような指導を受けた。実際には高校の顧問の先生からではなく、治外法権ともいえる寮生活における上級生からのさまざまな理不尽な指導である。実業団に入って引退したとき、『何のためにやっていたんだろう』とふと気付かされたのである。
そういう修行僧的な陸上競技は、まずまったく面白くない。しかも、人間的でない。引退後、選手はコミュニケーションを取れない人間になる。だから、出世もできない。そんな社会的に役立たない選手を育てて、何の意味があるのか。」(原 2016 .p68)

この様に上から押し付けられ、思考停止して従うだけの指導というのはその先の社会で選手が自分で考えて行動できない危険がある事を原さんは危惧しているのが分かります。

スポーツチームの中での、上から押し付けられて思考停止して従うだけの指導の問題点があることは分かったと思います。心理的安全があれば、メンバー一人一人の意見が尊重される雰囲気なので、意見が出せる機会がある事、意見が出せるからこそ、考える機会もあります。そうすることで、一人一人は考えて行動し、より良いチームが作れると思います。

心理的安全が青学陸上部(現代の若者)にはまったわけ

では旧態依然としたトレーニングで結果を出してきた選手はいるのに、なぜ青学陸上(現代の若者)に心理的安全と思われる雰囲気を作ったのか。そして昔のチームも心理的安全があればもっといい結果を出せたのかを考察していきたいと思います。

 「ただ『文句を言わずにやれ』『黙ってやれ』では、やれされ感が拭えない。だから、指導者は、いくらでも違うやり方がある中で『何のためにこれをやるのか』『どういう理由でこれをやるのか』『なぜこれが必要なのか』などを理論的に説明し、選手たちに納得してもらわなければならない。というのも、どういうやり方があるかについては、インターネットを検索すれば山ほど情報が出てくる。つまり、物事の答えは、ネットの扉を開けば、いくらでも出てくるのだ。だから、それらのやり方のうち、どれを選ぶべきなのか、なぜその選択をするのかを教えるのが指導者の役割である。」(原 2016.p81)

この文章では、日本が豊かになり、スマートフォンを若者のほとんどが所有している状況では、指導者が理論的な説明もなくトレーニングをやれと指導しても、インターネットを使えばトレーニングの様々な方法が出てくるため、選手たちがトレーニングをやる意味を見つけられないという事を述べているのだと思います。
私たちはモチベーションの面の話ではなく、情報が誰でも入手できる環境では、例えば、選手が知っているトレーニングの方法が効果的である可能性があります。よってチームのメンバー全員が意見していく事で、トレーニングもより効果的になっていくのではないかと思います。

つまり、青学陸上部の部員の様に、私たちもスマートフォンによって情報をインプットすることが出来るので、個々人は意見を持つことが昔よりも簡単になったと思います。そこに心理的安全があれば、積極的に自分の意見を示し、考えにヌケ・モレ。ダブり無くなっていき、より良いチームになれるのではないかと思います。
しかし、昔の若者は今の若者のように多くの情報に触れることが出来るスマートフォンのようなものがなかったので、意見を言うためのインプットが難しく、今の若者ほどは心理的安全があっても意見を言うことが難しかったのではないかと思います。

心理的安全をつくる難しさ

ではなぜ他のチームや組織は心理的安全を作らないのでしょうか。心理的安全を率先して作るべき人が心理的安全を作ることを拒んでいる可能性があります。心理的安全を作ると立場が上の人は今の自分の状況が危ぶまれるのです。なぜなら、今までは上下関係があったこともあり多少間違っていたことでも何も言わずに受け入れていましたが、心理的安全が作られて間違っていると指摘されてしまうので自分の言うとおりに社員たちが動かなくなることもあります。そういう面を考えると上の立場の人は組織のためには心理的安全作ったほうが良いが個人的には作りたくないという感情が生まれると思います。

そして心理的安全にもデメリットはあります。そのデメリットは心理的安全をはき違えてしまって後輩が先輩への尊敬の心を失ってしまうのです。心理的安全と緩い組織はイコールでつながってしまうこともある。だからどんな組織でも心理的安全を作ることはできないのです。人間的な常識や当たり前のことをできる様な組織でないと作ることはできません。
このようなことが心理的安全を作る上で難しい葛藤や最低限のルールが存在することがあります。

まとめ・感想

心理的安全を調べていくうちに、チームにこの雰囲気さえあればどんなチームもうまくいくのではないかと思いました。しかし、心理的安全を作るためには、チームのメンバーの全員が、時間を守る事、挨拶をすることなど、当たり前の事が出来ることが条件にあります。
当たり前の事は、チーム活動を円滑に進めるためにどんなチームにも必要なことなのだと感じました。まず、当たり前の事を出来ようになることが、個人レベルでは必要なことなのだと思いました。

執筆:橋本ゼミ5期生 大森裕輝 真壁宗一郎

参考文献・参考サイト

「原監督 理不尽な上下制度や奴隷的指導をぶち壊した」日刊スポーツ2017.1.27 閲覧
http://www.nikkansports.com/sports/athletics/news/1760567.html
エドモンドソン(2014) 「チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ」英知出版.
https://www.amazon.co.jp/C/dp/4862761828
原晋(2016)「勝ち続ける理由」祥伝社.
https://www.amazon.co.jp/dp/4396114915/

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