鹿という動物の新たなる可能性

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こんにちは。橋本ゼミ12期生の山田、橋本、武井です。

みなさんは獣害問題について、聞いたことはありますか。現在、日本では野生鳥獣が増えすぎたことで農業や自然環境に大きな問題を及ぼしています。主に鹿や猪などが田畑を荒らしたり、ヒノキの樹皮や高山植物を食害したりするなど、令和2年度の農産物総被害額は161億円を超えているのだそうです。そのため、捕獲した野生鳥獣を廃棄するのではなく、これを資源としてとらえ、ジビエとして有効活用する取り組みが近年広がっています。

産業能率大学湘南キャンパスがある伊勢原市は、神奈川県で2番目に獣害被害が多いです。橋本ゼミでは、地域問題に着目した活動を行っているため、獣害問題について興味を持ちました。調べを進めていく中で気が付いたのは、獣害を引き起こす鹿や猪などの肉、つまりジビエを食べることで、その問題に貢献できるということです。

そこで、私たちは鹿肉を食べる機会を提供し、獣害問題について興味を持ってもらうことを目的に鹿肉カレーを1食1000円で販売しました。辻堂フェスティバル(2023年10月15日)と瑞木祭(学祭)の2日間で販売を行い、合計150食ほどのカレーを完売させることができました。

しかし、鹿肉カレーに興味を持ってもらうことはできても、1食1000円という値段を聞いて購入しない人が多かったです。それゆえに鹿肉をもっと安く提供することができたら、もっと多くの人に食べてもらうのは当然ながら、獣害問題の解決につながると考えました。このような見解から、ジビエカレーの工場とは異なりますが、静岡県に鹿肉の加工施設を持つ湘南ジビエさんにご協力いただき、鹿肉についてインタビューを行いました。

注意:鹿肉の加工中の写真があります。苦手な方はご注意ください。

鹿肉の加工作業

加工施設には、鹿は亡くなっている状態で運ばれてきます。図のようなところで鹿をつるし、皮を剥ぎ、内臓などを取り出したら、一晩冷蔵庫で寝かせます。

こちらが一晩寝かされた鹿になります。

鹿肉を切り分けていきます。この際に、気を付けることは、鹿肉に毛をつけないようにすることです。目視以外で確認する方法がなく、一つひとつ目視で確認を行い、ピンセットで取り除いていきます。

作業完了後の鹿肉になります。3人態勢で加工したのですが、作業終了までには、2時間ほどかかりました。40kgあった鹿からとれる可食部は10kg程になります。

鹿肉が高価な理由

山田、橋本、武井 なぜ、鹿肉は高くなってしまうのですか

湘南じびえ 鹿肉には、牛肉や豚肉などとは異なり、問題がたくさんあるからです。現状、鹿肉を購入したいという声をたくさんいただいています。しかし、出荷を頼まれても出荷ができないのです。良質な鹿は多い時でも週に4頭~5頭しか仕入れることができません。また、一頭当たり、良くて10kg程度しか食べられる部分がないのです。

山田、橋本、武井 とても少ないのですね。素人目線から考えると、機械化して大量生産したら効率がよくなり、安価でたくさん出荷できるのではと考えていたのですが。

湘南じびえ まず、鹿肉には生産という概念がありません。鹿肉は、狩猟して加工し、販売しているのです。仕入れられる鹿が限られている点や手作業が強いられて時間がかかる点などから、効率よく大量生産を行うことができないのです。

山田、橋本、武井 そのような理由から鹿肉が高くなってしまうのですね。

湘南じびえ そうですね。しかし、鹿肉は高いと言われていますが、これ以上値段を下げることはできません。

鹿肉が全国的に販売されない理由

湘南じびえ 一般に広めていくためには、大型スーパーなどでも取り扱ってもらう必要があると思います。しかし、大型スーパーなどは、一定の量と一定のクオリティが求められるのですが、鹿肉は一定のクオリティを保つことができないので、スーパーに卸すことは難しいです。

山田、橋本、武井 安定供給ができないのですね

湘南じびえ 安定供給とは少し違います。供給はできるのですが、クオリティを担保することができないのです。様々な問題から鹿肉のクオリティを保つことは困難です。実現するためには、20社ほどのジビエ加工業者が団結して、鹿肉を卸さなければなりません。全国にジビエ認証の加工施設は20か所のみですので、現実的に考えて難しいです。

また、問題はそれだけではありません。大型スーパーなどは、一度に大量購入するので、値下げしようしてくるのです。1kg当たり1000円で仕入れようとしてきます。

山田、橋本、武井 1kg当たり1000円は安いのですか?

湘南じびえ それではビジネスが成り立ちません。最低でも1kg当たり3000円はしないと赤字になってしまいます。1kg当たり10000円で販売できるのが理想です。しかし、現状ではビジネスとして成り立っていないです。

山田、橋本、武井 鹿肉が高価な点、大型スーパーでは取り扱えない点などから一般に広まりにくいのですね。

湘南じびえ そうですね。

鹿肉ペットフードのビジネス的可能性

山田、橋本、武井 鹿肉でビジネスは成り立つのですか。

湘南じびえ 正直厳しいですね。先ほども述べた通り、出荷できる量が限られている点です。そのため、売上を伸ばすことが難しいです。また、1kgあたり10000円で売れることが理想ですが、現実では、1kgあたり5000円程で取引されることが多いです。なので現在、新たな取り組みをはじめています。

山田、橋本、武井 どのような取り組みをしているのですか

湘南じびえ 鹿肉をペットフードとして、展開していくことです。鹿肉は、高たんぱくで低脂質な点や、アレルギー性が低いことなどから、ペットフードとして人気が高いのです。

山田、橋本、武井 ペットフードとして人気が高いのですね。

湘南じびえ はい。鹿肉をペットフードとして扱うことには、もう一つ理由があります。

山田、橋本、武井 どのような理由ですか

湘南ジビエ 単価が高くなるのです。食用の鹿肉は、1kgあたり5000円程で販売されることが多いです。しかし、鹿肉をペットフードとして販売すると、30gあたり3000円で販売することができます。また、某番組から依頼を受けて製作したのですが、とても人気が高いです。

山田、橋本、武井 ペットフードとして、販売する方が、利益が大きくなるのですね。

湘南ジビエ はい。ビジネス的な理由から、今後は9:1の割合で鹿肉をペットフードとして販売していこうと考えています。

まとめ

私たちが獣害被害の解決の糸口としていたジビエには、様々な問題が存在していることが今回の取材を通じて、明らかになりました。ジビエを食用として利用率を上げようとするには供給を増やし、もっと安価で提供することが必要です。

しかし、「供給量を上げる=鹿の量が増える→獣害被害が増える」という矛盾が生じています。安定的なクオリティで供給ができないため、大型スーパーに取り扱ってもらいづらく、全国的に広げていくことは不可能なことだとおっしゃっていました。

獣害被害を受けている人と受けていない人では、ジビエが抱える問題に対する認識にずれが生じており、これをなくしていかなければ、問題を解決することは不可能のように感じました。

現状では、鹿肉を食用として利用するにはビジネスとして成り立ちません。そのような現状を打破しようと、新たな取り組みとして、鹿肉を使用したペットフードの販売が始まっています。獣害問題に対して工夫を凝らし、真剣に取り組んでいる人がいるのです。実際には、自分には関係がない人がほとんどだと思います。しかし、被害をゼロにしない限り、被害者はいなくなりません。被害を受けたことがない人も、ジビエの問題について興味を持つことが、解決の第一歩になると考えています。

インタビューにご協力いただいた湘南じびえ様のWebサイト

湘南じびえ
日本の自然と森を愛する、ジビエ肉販売会社です。

執筆:橋本ゼミ12期生 武井佑恭 橋本悠矢 山田孝太

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この記事を書いた人
橋本ゼミ生

産業能率大学情報マネジメント学部橋本ゼミに所属するゼミ生です。

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