コロナ渦のピンチをチャンスに!新コンテンツ「リモート演劇」とは

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はじめに

こんにちは、9期生の柳田愛美里です。

私は演劇同好会に所属しており、2020年11月7日(土)8日(日)に開催された瑞木祭のステージ発表にて作品を上演しました。

そして先日制作作品を「デコラボギャラリー」に出展し、デコラボ賞を受賞しました。

デコラボギャラリーとは、産業能率大学内で制作されたデジタルコンテンツを一堂に集め、優秀なコンテンツを外部に発信することを目的にコンテンツビジネス研究所が開設しているWebギャラリーのことです。

そして今回受賞した作品がこちらです。

実はこの作品、1度しか会わずに制作した演劇作品なんです!

このように主にビデオ通話を用いて制作された演劇作品は「リモート演劇」と呼ばれ、昨今そのジャンルを確立しています。

「リモート演劇」という新しいコンテンツ

昨今、新型コロナウイルスの蔓延の影響により、舞台やコンサートなどのイベントは軒並み中止になりました。演劇は「舞台」と「観客」があってこそ成り立つライブエンタテイメントです。中でも演劇界は大きな打撃を受け、一時期は多くの劇場が閉鎖に追い込まれました。

ぴあ総研の調査「新型コロナウイルスによるライブ・エンタテインメント業界への影響」に関するデータによると、

5月時点で実際に11万3,000本もの公演、試合が中止され、それを観に来る予定であった6,500万人が入場不可を余儀なくされました。

また年間市場規模9,000億円に対する消失割合を金額に直すと、約1,980億円もの損害が出ていることが分かります。

ライブ・エンタテインメントは密閉空間で大人数が集まり、パフォーマー同士、観客同士が近距離の中行われることが多いため、まさに「密閉・密集・密接」の3密が揃った空間となってしまいます。それは演劇界も例外ではなく、感染拡大により多くの劇団が演劇公演を中止せざるを得なくなりました。

そんな中、

  • 密閉じゃない(1つの空間じゃない)
  • 密集しない(人が集まらない)
  • 密接しない(隣の席に人がいない)

これを解決する策として生まれたコンテンツが「リモート演劇」なのです。

なぜ「舞台公演のオンライン配信」ではなく「リモート演劇」を選んだのか

しかし、演劇の1番の醍醐味と言えばやはりそのライブ感。

ライブだからこそ起こりうるハプニングも楽しみの1つですよね。そして何より舞台ならではの目映い照明と壮大な音響、舞台セット。

このライブ感を演出するのであれば「舞台公演のオンライン配信」の方が良いのではないか?これは製作途中に出てきた懸念の1つです。

まずは、「舞台演劇」「リモート演劇」「舞台公演のオンライン配信」の違いを比較してみましょう。

比べてみると、実際の舞台公演に近いのは「舞台公演のオンライン配信」であることが分かります。

しかし、オンライン配信とリモート演劇には明確な違いがあります。

その違いこそ、リモート演劇を選んだ大きな理由でした。

それは、観客の視点の場所です。

舞台公演をオンラインで配信する場合、舞台全体を映しているだけでは舞台が広すぎて役者の表情が見えないため、注目すべきシーン(役者)をアップで映すことがあります。つまりテレビドラマのようにカメラ自体が観客の視点を再現するということです。

一方、リモート演劇の場合は、複数の役者が画面いっぱいに並んでビデオ通話形式でお芝居をします。そのため役者の表情の変化が読み取りやすく、またある1人が中心のシーンであっても別の役者の感情の動きを追うことが出来ます。つまり、観客は自ら視点をどこに置くか選択することが出来るのです。

注目点を誘導するのではなく、観に来てくれた方々に、実際の舞台公演同様誰の表情に注目するかを選んでいただきたい。そういった理由から私たちは「リモート演劇」を制作するという選択をしました。

だからこそ出来る「演出」の在り方

今回制作・受賞した作品は「?女子大生はオンライン劇の夢を見るか?」というSF演劇作品でした。

本作品を制作するにあたっての流れをご説明します。

  • 脚本執筆(9月3日~10月3日)
  • 役者・スタッフ決定(10月1日~10月7日)
  • 読み合わせ(10月10日)
  • 稽古・Zoom収録(10月15日~10月29日内5日間)
  • 対面収録(10月20日)
  • 映像編集(10月20日~10月31日)
  • 完成(10月31日)

通常の舞台演劇と大きく異なる注目点は④以降の「収録」です。

今回はビデオ通話ツールの中でもポピュラーな「zoom」を用いて収録を行いました。

リモート演劇は舞台演劇と比べて平面的で奥行きを感じることが難しい作品です。だからこそ舞台セットや装飾で勝負が出来ないというデメリットがあります。

しかし本作品ではそれを逆手に取り、出演者3人の背景をすべて白で統一しています。

それにより、平面空間だからこそ表現できる「異質感」を生み出しました。

使用メディアの違いは演出にも表れています。

例えば役者がシーンから姿を消す際、舞台演劇の場合、舞台袖に捌けるという形で居なくなった状態を表します。一方でリモート演劇では、対象の役者がビデオの停止をすることで一瞬でシーンから姿を消すことが出来ます。これにより、舞台演劇では不可能である「誰かから意図的に存在を消される」という演出が可能になるのです。

作品のネタバレになってしまうため詳しくは記述できませんが、本作品の重要な場面でこの手法を使用しています。

「?女子大生はオンライン劇の夢を見るか?」制作してみて

本作品を制作する上で、最も大きいと感じた壁はやはり生の舞台演劇でした。今回の作品は事前に収録し編集したものです。そのため、「演劇作品」の括りか、「映像作品」の」括りか判断が難しい作品であったと思います。実際、「デコラボギャラリー」に出展した際も審査員の方に「リモートしばりだと演出が単調になるので、見ている側も『飽き』が出てしまう可能性がある。尺半分で2バージョン作るなどが良いのでは」というコメントをいただきました。これは審査員の方が本作品を「映像作品」として評価してくださったからだと考えられます。

では、この大きな壁の正体は何なのか。それは前述の「ライブ感」だと考えます。舞台演劇は役者、観客ともに生(なま)の空間にいます。もしかしたら何かハプニングが起きるかもしれない。何が起こるか分からない。役者は一発勝負の緊張感がありますし、観客も同じステージは一度しか見られないという高揚感があります。それがライブ特有の空気を生み出しているのです。しかし本作品は一発撮りではありません。音響も後から編集したものです。これが本作品が「映像作品」として評価された要因であると考えます。

今後、もしリモート演劇を制作してみたい!という方がいたら

  • ライブ感を生み出すにはどんな演出にするか
  • いかに観客に時間を感じさせないようにするか

この2つを意識してみてほしいです。②はリモート演劇の場合、映像の下に再生時間が表示されてしまうため、観客が時間を意識してしまう原因になってしまうからです。

リモートだからこそ多種多様な表現が出来るというメリットはあるものの、それが果たして演劇作品として評価してもらえるのか、制作を通じて非常に考えさせられました。

今後も、映像とはまた違うリモート演劇の形を見つけていきたいと思います。

ピンチをチャンスに

商業演劇の舞台公演が徐々に観客を動員し始めている一方、上演中の舞台出演者、スタッフに新型コロナウイルスの陽性反応が出てしまい公演が中止してしまうといったケースもあり、今後どうなっていくのか分からない現状です。

しかし、「リモート演劇」はこの時世だからこそ生まれたコンテンツです。1年前は「オンラインで授業」「オンラインで仕事」が普通の世の中になるなんて誰も予想していませんでした。オンライン作業、リモート作業に特化した今だからこそ受け入れられたコンテンツと言えるでしょう。演劇のピンチをチャンスに変えたのがこの「リモート演劇」という在り方です。

私が所属する演劇同好会もウイルスの蔓延により設立早々活動継続の危機的状況に立たされましたが、この状況を逆手に取り遠隔で演劇作品を制作したことで、受賞作品として結果を残すことが出来ました。まさに「ピンチをチャンスに」です。

苦境に立たされた時こそ、新しい常識を作るチャンスなのではないでしょうか。

【出典】

ぴあ総研、「新型コロナウイルスによるライブ・エンタテインメント業界へのダメージについて」、令和5月末現在(参照 2020-12-13)

執筆:橋本ゼミ9期生 柳田愛美里

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この記事を書いた人
橋本ゼミ生

産業能率大学情報マネジメント学部橋本ゼミに所属するゼミ生です。

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