2017年1月25日、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ主催、「地域とスポーツのしあわせな関係」というテーマのもと、川崎フロンターレ プロモーション部 天野春果さんの講演に参加してきました。
川崎フロンターレがやってきた数々のイベントが、何を川崎にもたらしているのか、講演を聴いての私自身が感じたことを書いていきます。
天野さんはJリーグ川崎フロンターレでプロモーションを担当されています。川崎フロンターレといえば2016年シーズンMVPの中村憲剛選手や小林悠選手など日本を代表する選手が所属していることで有名ですが、数々の斬新なイベントを行っていることでも知られています。
個人的には2014年から行われている「カブの日」は大変興味深いイベントでした(詳しくは後ほど)。そんな数々のイベントをプロモーション部部長として仕掛けているのが天野さんです。1992年からワシントン州立大学でスポーツマネジメントを学ばれた後、1997年に川崎フロンターレ(当時は富士通フットボールクラブ)に入社されました。
当時川崎フロンターレはJ2を戦っており観客数は1万人を下回っていました。しかしそこから徐々に人気が定着し、今では2万人を上回るまでになっています。「ホームタウンで大きな貢献をしているクラブ」でも6年連続の1位になっています。確実に地域に根差しながら観客動員を増やしているのがわかります。
どのようにして川崎という大都市に定着していったのか、聴きに行ってきました。
目次
小さなことの積み重ね-川崎フロンターレが積み上げてきたもの-
川崎フロンターレのイベントや地域での活動は年間でもかなりの数行われていますが、ただただ乱発しているわけではないのです。
先ほど記述した「カブの日」(カブトムシの採集などができるイベント)をはじめ、羊や馬などたくさんの動物と触れ合える「フロンターレ牧場」、川崎市の銭湯とコラボする「いっしょにおフロんた~れ」、小児科病棟を訪問する「ブルーサンタ」(ブルーはフロンターレのチームカラー)、岩手県陸前高田市で行われた「高田スマイルフェス」や選手の小学校訪問などなど様々なイベント活動があります。
これらに共通しているのは決して1度きりの単発的なものではなく“継続的”に行われているものです。「ブルーサンタ」に至っては天野さんの入社した1997年から20年間毎年開催されています。これらの数々の積み重ねが、伸び続ける観客動員数や「ホームタウンで大きな貢献をしているクラブ」で6年連続1位といった結果に表れているのではないでしょうか。
そして数々のイベントを手掛ける中で天野さんが大事にしているのが、「一般的に思い浮かぶものや予定調和なことはやらない」ということ。他にない斬新なイベントをやっていくことで参加者の記憶に残るだけでなく、珍しいイベントを行うことでメディアの露出も増え、フロンターレの活動が多くの人に知れ渡ることにもなるのです。
私が一番興味を持った「カブの日」や「ブルーサンタ」、選手の小学校訪問も子ども達にはとても印象深く思い出として残ると思います。子どもの頃にワクワクしたことって意外とはっきり覚えていませんか? 私はまだ大学生ですが、小さい頃に父とカブトムシの採集によく行ったのを覚えています。子どもは好きなカブトムシと触れ合い、お父さんはそんな子どもを見て自分の小さな頃を思い出す、そんな子どもも親の心もくすぐるようなイベントをフロンターレが開催する、子どもの心にはカブトムシ採りとフロンターレの思い出がずっと残り続けると思います。
そして自分のいる病院や小学校にJリーガーが来たりしたら子ども達も嬉しいはずです。フロンターレはそんな“継続的な”活動の積み重ねもあり、小学生の来場者も数多いそうです。これこそが天野さんの仕掛けるフロンターレのイベントのすごさなのです。
天野さんの入社当時はフロンターレに興味すら持ってもらえず、川崎という街に受け入れてもらうところから始まったそうです。そこからの数々の小さな積み重ねが今の川崎フロンターレを支えているのです。
天野さんの講演を聴いて
私は大学を卒業したらJリーグのクラブスタッフとして働きたいと思っています。産業能率大学に入学したのもスポーツマネジメントを学ぶためです。しかし、私のこれまでやってきたことは大学でのスポーツマネジメントに関する授業を受講することくらいでした。スポーツマネジメントの基礎や基本、Jリーグのビジネスや他のスポーツのビジネスを授業で学んだり、実践的なこととして提携している湘南ベルマーレのスタッフの方のお話を聴いたり、授業内でスポーツビジネスについて提案したりはしていましたが、大学生のうちはそれくらいの「経験」でいいだろうとどこかで思っていました。
ですが天野さんは、異国のアメリカでスポーツマネジメントを学びながら100億円ものお金が動くカレッジスポーツのスタッフとして働き、街中がカレッジスポーツを応援している環境を実際に「経験」していました。そのアメリカでの光景を日本でも創りたいという想いでJリーグのクラブスタッフになられたそうです。
天野さんにはそんな明確なビジョンがありました。当時の天野さんと同じ大学生でありますが、私にはそんなルーツになるような「経験」が圧倒的に少ないのです。また、私には根拠のある明確なビジョンがないことにも気づきました。
天野さんの留学時代のお話は講演のはじめの方でしたが、いきなりの危機感。そして、圧倒的な差を突き付けられたような気分でした。「俺、このままじゃだめなんだ」と思わされました。
お話を聞いた今は、ここで感じた気持ちを糧に、できるだけのことを積み重ねていきたいと思っています。
まとめ
当日は川崎フロンターレサポーター、地域づくりについて興味を持って来た方、そして私のように将来サッカーに携わる仕事を目指している人やサッカーについて興味があり来た人でほとんどを占めていました。同じお話であっても、受け取り方はそれぞれであったかと思います。
もうひとつ気づいたことがあります。2時間の講演の中では、「おもしろいこと」という言葉が頻繁に出てきました。天野さんは常に「おもしろいこと」が頭の中にめぐっているのだと思います。2017年シーズンは天野さんの去った川崎フロンターレがどのような「おもしろいこと」をやるのか、等々力競技場に足を運んでみたいと思います。
2月からは東京オリンピックの組織委員になる天野さんがこの講演の最後に「おもしろいことを思いついた!3年半後楽しみにしていてください!」と言っていました。それが何なのか楽しみにしつつ、私もその時には同じ環境で戦っていたいです。
参考文献
天野春果(2016)「スタジアムの宙にしあわせの歌が響く街」(小学館)
他にも著書に「僕がバナナを売って算数ドリルを作るワケ」(小学館)がある
参考サイト
・World Fut 「サッカーで人を幸せにする 川崎フロンターレプロモーション部天野春果」
・Yahoo!ニュース 特集「宇宙にゴジラ、レーシングまで。川崎フロンターレに所属する“Jリーグ最強の企画屋”」
・東京新聞 TOKYO Web「名物企画仕掛け人が五輪組織委へ フロンターレ部長・天野春果さん」
・DIAMOND online「川崎フロンターレはなぜイベントを連発し、算数ドリルを配るのか」
・フットボールチャンネル
・J論ニュース「プロモーション部・天野部長の『プロモーション道』」
・あしたのコミュニティーラボ「人とスポーツの接点をどう作る?-地域を巻き込む川崎フロンターレの挑戦」
・FOOTBALL ZONE WEB「プロモーションの概念を覆す川崎フロンターレの挑戦」
・川崎フロンターレ公式ウェブサイト フロンターレ日記
・J.League Data Site
・J.LEAGUE.jp観客者調査サマリーレポート
執筆 産業能率大学 橋本ゼミ4期生 富岡旭