「大人のプロジェクト型の越境学習、それを研修として行うこと」に関する難しさ ヤフーとその仲間たちのすごい研修を読んで

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ヤフーとその仲間たちのすごい研修を読みました。
「大人のプロジェクト型の越境学習、それを研修として行うこと」に関する難しさがこれでもかと詰まった一冊です。

本書は、ヤフー、インテリジェンス、日本郵便、アサヒビールという異業種の企業による合同の研修をレポートしたものです。舞台は、北海道美瑛町。この地の課題解決を行うというプロジェクトを遂行しながら、「リーダーシップ」を学ぶというプロジェクト型の研修について、研修を作成した各企業の人事、研修参加者の当事者の声を中心として、半年間に渡るプロジェクトの全容がレポートされています。

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本書を読んで、人材育成の観点から感じた3つの「難しさ」について述べていきます。

プロジェクト型の難しさ
越境学習の難しさ
研修の難しさ

プロジェクトなのか、ラーニングなのか

本研修で行われている手法は、プロジェクトベースドラーニング(PBL)だと言えます。美瑛町の地域問題解決というプロジェクトの遂行を通じて、リーダーシップを学ぶという構造になっています。

「仕事を通じて成長する」とよく言われます。それは「プロジェクトを通じて成長する」ということにも通じます。それ故に、プロジェクトの遂行を通じて、本物の(ガチの)課題に取り組むことで成長するというのが、プロジェクト型学習です(ざっくりと)。この手の形態は、企業教育だけではなく、大学教育でも増えています。

プロジェクトで人は成長する。これを前提とした上で、難しいと思う点があります。それは、プロジェクトはラーニングのためにできている訳ではないという点です。

極めて当たり前のことですが、プロジェクトを通じて学ぶプロジェクト学習ですが、学ぶためにプロジェクトがあるわけではないので、プロジェクトは必ずしも「良い学び」を作り出す方向に行くとは限らないということです。

本書の中でも、プロジェクトがナマモノであることが示されています。大学等で主催する立場としては、プロジェクトを狙いどおりにコントロールしようとすればするほど本物らしさは失われていき、そもそもプロジェクトと言えるものだったのか?という状況にたどり着きます。一方、コントロールしなければ、様々なステークホルダーの影響を受けてあらぬ方向に行ってしまうこともあるでしょう。絶妙なバランスが求められますが、それはやっぱり偶然の要素を含め、かなり難しいことだと思います。

本書でも、本物の課題に取り組むという「プロジェクト」であるがゆえの難しさが様々な例で示されていました。

越境は、やっぱりハードルが高い

もう一つの特徴として越境学習としての側面があります。越境学習とは、会社という境を超えて社外の勉強会などに参加することを言います(これまたざっくり)。本書でも複数の会社の人たちが集まった取組になっており、「用語を統一すること」から始まりチームビルディングには苦労している様子が伝わってきます。

越境学習は、社内にいたのでは得られなかった視点や、自らが囚われていたものに気づくことなどに意味があります。しかし、境には意味があるとでも表現すれば良いのか、境を超えるというのは簡単なことではありません。

私も昨年、複数の組織、企業の方が集まる勉強会に参加していましたが、まあ噛み合わないのです。特に、はじめはひどい状況でした。それは、メンバーそれぞれが無意識に囚われているものがあるのですが、それがそもそもとしての知識不足や認識違いなどとごちゃまぜになってやってくるので、切り分けるのが大変です。それに気づくことは、やはり参加者に相応の覚悟が必要かなと思います。

本書でも、限られた時間の中でチームビルディングに苦労している事例など越境の難しさを示すところがいくつか出てきます。特に、私はP206が秀逸だと思いました(詳細は本書にてご確認ください)。

研修とはなにか?

本書では、プロジェクト型の越境学習であることを示した上で参加した人が多いようですが、中には思ってもみなかったという反応を示される人もいたようです。それは、「研修」というもののイメージがあるのかなと思います。

プロジェクト型を取ると、「明日は一日研修なんだ」ではすみません。もっと、時間も労力も必要とするからです。言い換えれば、本業を侵食する。提供側からすれば、「研修も仕事だ」となるでしょうが、現場にいる身を想像すると、やっぱりそれは本業ではない。

提供側と受け手。「研修」という形として提供することの難しさを感じ取りました。

まとめ

本書のタイトルになっている「すごい研修」という意味ですが、「完成度が高い」とか、サクッと読むと「真似できる」といった意味での「すごい」ではないと思います。この場合の「すごい」というのは、上記3つ上げたような難しさに敢えて取り組んでいる点にあると思います。そして、本書の価値のひとつは、「大人のプロジェクト型の越境学習、それを研修として行うこと」についての難しさを事例として示してくれている点にあると思います。

プロジェクト型の学習を実施したい/しているという人は、学ぶところがとても多い一冊になっていると思います。

最後に、こうした取組は「本当に地域の役に立つのか?」という議論があるかと思います。この点については、私にはまだ判断できません。しかし、「このやり方が地域の役に立つのだ」という唯一絶対的な取組があるのかといえば、そうでもないと思います。これまた手探り状態。どういった取組も一長一短あるのかなと思います。当事者がやるべきだ、いや、外部の知恵を入れるべきだ等々、様々な意見があるかと思います。これはまた別の話として。

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この記事を書いた人

産業能率大学情報マネジメント学部 准教授 橋本諭(はしもと さとし)。
研究テーマは、ソーシャルビジネス、人材育成を扱っています。

橋本 諭

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