人材育成は「行う」ではなく、組み込む!

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 先日、ある中小企業の経営者の講演会を聞きに行きました。以前から接点があった経営者の話でしたが、非常に感銘を受けたので、こちらでもエッセンスを紹介したいと思います。とても、参考になる点が多いかと思います。

 
 その会社は、関東にある社員10名程度の中小企業です。治具研磨加工を専門としており、小さいながらも「技術力」により生き残っている、いやしっかりと歩んでいる、そんな会社です。

人材育成以前の問題

 まず、人材育成以前に問題があると言います。それは、「いつかない」ことです。小さな会社で募集を行ったとしても、人材がやってこないというのです。さらに、折角採用した社員も「長続きしない」というのです。技術力で勝負をするためには、「他社が真似できない技術」を身につける必要があります。その技術を習得するための時間を掛けられないという事です。

 さらに、「もう一度、教育し直さなければならない人材が集まる」とも言うのです。これは、いわゆる社会人(社会で普通に生活する人)として必要な「挨拶」だったり、「算数」的なものが出来ない人の事が来るのだと。

「朝来て、そのまま機械の前についたりするわけよ。そんなのあり得ないでしょ」という訳です。

この会社がすごい所

 実は、上記のような話は「どこでも聞く話」だと思います。むしろ、居酒屋なんかに行ってみれば、「うちの社員(部下、後輩)がいかにダメか」自慢をしている事があります。まるで、健康診断結果を元に、「不健康自慢」を行っている人と同じような形です。

 そこで終わってしまってはその他一般と同じですが、この会社では、その状況に対し、2つの策を講じています。

 「個別対応」と、「業務への埋め込み」です。

 個別対応とは、社員一人ひとりの苦手な所だったり、伸ばしていく所を「しっかりと観察」したうえで、個別具体的にプログラムを作り上げているのです。

 ある社員は、挨拶などの基本的な所を育てる必要があるなとか、ある社員は今後経営幹部に育ってもらわなければならないなとか、そのような形で「経営者」が考えているのです。

 さらに、こういった点をうまく回す方法として、業務の中に「埋め込んで」いるのです。業務の中に埋め込む事によって、日々少しずつ「チャレンジするチャンス」が生まれます。チャンスは多い方が、当然「試行錯誤」する事ができる訳です。

研究者としての雑感

 研究者というのもおこがましいのですが、人材育成や中小企業論としての立場からの雑感を書きたいと思います。

 まず、当社が行っている人材育成策は、「個別対応」したプログラムになっている事が特徴と言えます。インストラクショナルデザインという観点から言えば、ニーズをとらえた教育を行う事が重視されています。当社におけるプログラムは、業務および対象者の面からニーズをとらえたうえで、適切な方法を選択しようとしていると言えるでしょう。これは、「今、および近未来に、その人が仕事を行う上で必要なことを的確に把握し、より当人に合った方法で提供している」形態だと言えます。

 また、「埋め込む」という点については、「ワークプレイスラーニング」が実践されていると言えます。ワークプレイスラーニングとは、ひどくざっくり言えば、OJTやOff-JTのように決まった育成を行うのではなく、業務に埋め込む形を言います。
 当社の場合には、人材育成というものの定義が異なっていると思います。通常は、現在の業務ありきで、そこに以下に人材育成を追加するかを考えるかと思います。しかし、現在の業務にプラスして人材育成を行うとすると、それは「付加的な」業務となります。一方、業務の中に埋め込んでいる事により、それは「業務そのもの」としてとらえられていると思います。

 そして、一番大切だと思った点が、経営者がそれらのことを「本気」でやっているという事です。実は他社においても、同様の事は実施されていると思います。また、人事などが中心となり「仕掛け」をしている例も良く聞きます。しかし、そうした場合、一番の難敵は「現場」であり、数字を管理する「経営者」です。やろうとしても邪魔されてしまうのです。

 当社の場合には、それを「経営者」が行っている所から、「スムーズ」に行えるだけの素地があるのだと感じました。もちろん、現場の社員の声を聞いてみなければわかりませんが、以前社員の方にお会いした経験を元にすれば、うまくいっているのだと考えられます。

印象に残った事

 実は、もう一つ印象に残った事があります。それは、「経営者」の仕事についてです。

 経営者にとって一番重要な事は、「利潤」をあげる事である。そのためには、様々な仕事がある。どのように優先順位付けをして実施するかが「経営」である。その中で「人材育成」は、最も「金」の掛からない投資である。投資をしなければ生き残れないし、利潤を確保できない。そのため、経営者の仕事のうち「人材育成」の優先順位は高い。特に中小企業では高い。少なくとも当社では、ほぼ全ての基礎だと思っている。

 一言一句同じではなく、記憶に頼っていますが、およそこのような事を発言されていました。ですから、この会社に取って人材育成は、今後とも「毎日の仕事」として「埋め込まれていく」のだなと感じました。そして、それが日常となっていく所に、強さの源泉が生まれるのではないかと。

 なお、もう一つ重要な点として、この会社の規模があります。10人程度であるからこそ、こういった対応を「経営者」ができるのです。大きな会社では出来ない事でしょう。

「家族的な所が中小企業の良さと思って、やっているんだ」とおっしゃっておられました。中小企業の良さがここにあるのだと思います。

 もっともっと、中小企業の良さを見ていきたい、調べていきたいと感じました。

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この記事を書いた人
橋本 諭

産業能率大学情報マネジメント学部 准教授 橋本諭(はしもと さとし)。
研究テーマは、ソーシャルビジネス、人材育成を扱っています。

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