「自分は未熟だ」の罠からどう抜け出すか

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ゼミの中で議論をしていた内容を紹介したいと思います。同内容はとても重要だと思っていて、他の授業の中でも少し(余談的に)紹介しています。
それは、「自分は未熟である」という前提からどう抜け出すか? ということです。
一つ一つ説明していきたいと思います。

学生としてのスタンス

大学生は、授業を受ける時とかゼミに参加する時、企業のインターンに行くときなど、どんなスタンスで臨むのかを意識的にor無意識的に選択しています。そのスタンスは「未熟」「現役」(ごく稀に)「引退」という3つ位があるだろうなと思います。

ひとつ目に「未熟」があります。「自分は未熟である」というスタンスで物事に接するということです。学生としては至極当然のことでもあります。自分が未熟だと認識しているからこそ、学ぶために大学に通っている訳です。そして、だからこそ、学費を払っている訳です。また、様々なことを吸収していくにはふさわしいスタンスだとも言えます。

次に、現役です。すでに何らかのアクションを起こしていて、その分野で現役でいる(と自己認識している)人です。現役であるからこそ、その領域での自然な競争があるため、さらに知識をつけようとします。

この立場は実際に何らかの手を動かして何か(実践的なものや、研究など)を作り出していたり、その分野内で勝負している人です。この人たちの特徴に、現役であるが故の深み、葛藤、苦悩があると思います。「今、これが(分野としてのor自分の)課題なんだ」という論点を持っているとも言えるかもしれません。この深みや葛藤は、同じく現役でいる人たちには、多くを語らずに伝わるものです。ちょっとした一言を聞いただけで、「ここまで来ているのね」とか「自分と近しいものを目指しているが方法が少し違うな」とかを理解し合えたりします。

引退は、後ほど。

未熟の罠

学生という立場に対する現状の一般的なイメージは未熟だと思います※1。ただし、ここに罠があるなと感じます。「自分は未熟」というポジションは極めて快適だからです。そして、安全でもあります。「自分は未熟である」というスタンスを取っている人に、「なぜ、お前は未熟なんだ」と攻撃していくる人はまずいないでしょう。学生だからという理由で様々なことが不問になっているのは、学生=未熟という認識が社会の側にあるからかもしれません。しかし、それが故に「成長の機会」も限られてしまいます。「現役」の人たちが感じるようなヒリヒリした緊張感の中で学ぶということができなくなります。

「社会人になった後の方が学べる(ざるを得ない)」というのは、このスタンスの違いがもたらしているのではないでしょうか。未熟のスタンスが許されないからこそ、強制的に現役にならざるを得ず、その結果として「学べる」という実感をもたらすのではないでしょうか。

ゼミの中で話をしていたのは、何らかの分野で現役になろう、ということです。言い換えると、「自分は未熟なんだ」を脱することでもあります。未熟を脱するのは怖いことでもあるので、ゼミメンバーでお互いサポートしながら(叱咤激励しながら)進めていくことが必要だと思っています。

そして、いつでも未熟に戻れることも学生の特権だと思います。一つの領域を深く学びつつ、それ以外の領域について未熟なスタンスを取りながら学ぶことができることや、未熟なスタンスで新しい何かに飛び込むことができるのは強みだと思います。

さいごに

ここで、引退を説明します。ゼミの中などにはいないのですし、学生でここになることはほぼないのですが、「昔やっていたが今はやっていない」という引退というスタンスもあるなと思います。ただし、学生の場合に注意が必要なのは、現役を介さずに引退に向かう道です。未熟から引退に直接行ってしまう訳です。作っていないのに、作っていた風、やっていないのに、やっていた風になるという形です。この引退のポジションもほぼ無敵なので、注意が必要ですし、一度入るとほぼ抜け出せないブラックホール的罠があるなと思います。

最後に、教員としてです。実は学生のスタンスを考えてみた場合、スタンスによって必要となる教員像は変わるのだと思います。特に、学生が「現役」の場合だと求められるものが一番大きくなるのではないかと思います。であるからこそ、ゼミでは「現役」が増えて欲しいなと思っています。それ自体が自分自身が現役であり続けるために必要なことだと思っています。教員としては引退のポジションの意味も意義も多くあるのですが、それは自分にはまだまだ先のことですし、まだできそうもありません。

※1 歴史的な観点からは以前の大学生は違う認識を持たれていたとも思います。

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この記事を書いた人

産業能率大学情報マネジメント学部 准教授 橋本諭(はしもと さとし)。
研究テーマは、ソーシャルビジネス、人材育成を扱っています。

橋本 諭

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