若者はダメなのか? 太田聰一著 若年者就業の経済学

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本書は、若年者の就職(就業)に関して、経済学的にデータを用いて論じている。中でも、本書が他の「若年層向け就職関連の書籍」と違うのは、以下の点にある。

 若年雇用問題は「若年問題」であると同時に「雇用問題」であり、その背後には供給側(若年者側)のみならず、需要側(企業側)の論理が強く働いているはずである。

まえがきPiiより

 上記のように、雇用問題として需給の関係から論じられているのだ。各種統計データなどをもとにして、様々なファクトが積み上げられている。
たとえば、以下のような記述がされているのだ。

  1. 所得格差や就業率、非正社員比率等のデータから、近年若年者の世代内格差と若年者と中高年層との世代間格差の双方が拡大している傾向が見られる P43
  2. 1992年から2002年まで、中学、高校卒業者の正社員としての雇用の場が大きく失われ、それは製造業の停滞やIT化、高学歴者の増加が影響している p43
  3. 短大・大卒者にとっても、専門的・技術的職業や事務職といった若年者にとって「良い仕事」が大きく減少した。P43
  4. 若者とその他の世代の失業率格差を観察すると、1990年代以降、必ずしも若年失業率高まりが他世代を圧しているわけではない。P79
  5. 学卒時の労働市場の需給バランスがその後の就業状態や労働条件などに及ぼす因果的な影響のことを「世代効果」といい、日本の先行研究によれば、賃金水準や就業状態、転職行動に世代効果があることが明らかになっている。P114
  6. 日本企業は広い年齢層から採用を行っているが、若年の比率が高く、正社員の採用や大企業による採用において、若年者や新卒採用の比率が高くなっている
  7. 日本企業の新卒者を重視する背景には、自社独自のスキルを身につけさせることを重視する特性が反映されていると考えられる P147
  8. 先行研究によれば、中高年労働者と若年労働者は代替的な関係であることを示唆するものが多い。また、中高年の多い企業や中高年の過剰感を持っている企業では若年採用が抑制される傾向がある。「置き換え効果」P183

詳しい内容は、本書で確認いただきたいが、 総じて言えば、若い人の就業状況がどうなっているのかという話と、それが経年変化や国際比較というような比較を通じて明らかにされている。そのデータからは、今の若者がダメだという事は読み取れない。

根拠のない批判と、思い悩む人々

 目の前の学生をみていると、「就職できないのは、自己責任だ」という声にさらされているように思う。その中には、「若者が楽な仕事ばかり選びたがるから、(仕事が)見つからないのだ」とか、「大学生のうちに遊んでばかりいるからだ」というような、一見正しそうだが根拠のない「若者批判」のようなものが多いからタチが悪い。一方で、素直な学生は、そういったスルーすべき批判をまともに受けてしまい、そして思い悩んでいるように思う。

 少なくとも、現在の不況は、彼らの責ではない。また、彼らの就職状況が厳しいのは、本書が示すように「本当は空くはずだったイスに、まだ誰かが座っているから」とも言える。それであれば、もちろん彼らの責ではない。

改めて感じた事

 本書では、若年者の就業を改善するためには、労働需要を増やす必要があると主張している。つまり、働き口を増やすという事だ。それは、雇用を生む会社を作り出すことや、産業振興という話につながる。一方、では具体的にどうするの?という所までは示されていない(と思う)。
 「いかにして雇用が生まれる環境を作り出すのか」それは、既に職を得ている世代が果たさなければならない責務なのだと思うと同時に、大学の教員という立場としてもその責任は重大であると改めて感じた。

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この記事を書いた人

産業能率大学情報マネジメント学部 准教授 橋本諭(はしもと さとし)。
研究テーマは、ソーシャルビジネス、人材育成を扱っています。

橋本 諭

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