社会人の「学生の時遊んでばかりいた」は、どの程度信じて良いのか?

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社会人が学生に向けてアドバイスをする際、大きく二つの意見があります。ひとつは、一生懸命勉強しておくと良いよというもの、もう一つはいっぱい遊んでおくと良いよというものです。感覚的には、後者のことが多いと思います。

 ここに「遊んでおくと良いよ」を補強する発言が出てきます。それは、「自分の大学時代なんか、遊んでばっかだったもんな」です。

 そうすると、「あんな社会で活躍している人だって遊んでばかりいたんだ、自分も大丈夫だろう」と受け取る学生がいます(ならない人もいます)。

 しかし、この「遊んでばかりいた」というのは罠が仕掛けられているなと思います。2つの視点から考えてみます。

遊びの意味の多様性

 一つは、「遊び」とは何か?というものです。
 何も、カイヨワとかホイジンガとかの話ではありません。ある人が「遊び」と捉える事の中には、かなり幅があると言うことです。

 例えば、社会人のある人が遊びと言った時に、「NPOを立ち上げて好き勝手やりたい事をやっていた」という仕事のような事を遊びと言う人もいますし、「海外旅行」といっても「2泊3日のツアー旅行」の人もいれば、「バックパックで数ヶ月放浪していた」事を遊びと言う人もいます。また、「麻雀やパチンコにハマり続けていた」という人もいます。中には、大学の研究は遊びみたいなものだったという人もいます。

 どれが良いとか、悪いとかではありませんが、「遊び」はかなり幅のある言葉だと言うことです。

 そうした時に、「遊んでいたのか? だったら自分も遊ぼう」と単純に転換するのは取り違える可能性があります。「よし、じゃあカラオケ行ってボーリングいくか」と受け取ったとしても、それは受け手にとっての遊びであり、必ずしも相手が言っている事と同じかどうかはわからないからです。

 何が良い遊びかを述べるつもりはありませんが、遊びには幅があると言う事は認識していると良いかと思います。なお、大学時代にどういった行動をしていた人がその後活躍しているのかと言うことは、トランジション研究といい、いくつかの研究成果が発表されています。

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大学生と社会人の関係に着目

 もう一つの視点として、社会人と学生の関係に着目する事もできるでしょう。

 社会人と学生とくに大学生では、実際には2才程度しか年が離れていなかったとしても、社会人というだけで大学生からは一つ上のポジションとして見られます。アドバイスという文脈になった時には、支援をする側、される側という立場が作られます。そして、キラキラした目で見つめられたりする訳です。気づいた時には、「何か為になる話をしてくれるだろう」という雰囲気が作られます。

 エドガーシャインは、こういった支援関係をワンアップ、ワンダウンという関係で説明し、支援する側がワンアップになるが故に、また支援される側がワンダウンになるが故に陥りがちな点についてまとめています。ワンアップについては「権力」を与えられた状態と述べ、権力を行使したくなったり、権力を手放したくないと思ったりするといいます。

 大学生から「社会人」として扱われている時には、何かアドバイスをしていいという「権力」を与えられている訳です。「いや、君の事は良くわからないから、具体的なアドバイスはできないな」となれば「権力」を失います。また、「そんなレベルの低いアドバイスかよ?」という反応が返ってきたとしても同じ事です。それは、「(頼りになる)社会人ではない」という扱いを受ける事にもなるわけです。極めて不安定な関係の上になりたっているものだと言えます。

 特に、あまり会った事がない学生に対してだったり、集団を相手にした際には具体的なアドバイスはしにくいのではないでしょうか。故に、アドバイスをするけれども「違う」と言われないような当たり障りのないようなものを選びがちです。(シャインはそれを、「支援者の役割を果たしたがらないこと」と呼んでいます)

 特に「○○と○○と○○をやっておいた方が良い」と相手の状況を外したアドバイスをする事態と比べれば、「遊んでいた」というのは、学生も受け入れやすいですし、否定しにくいという意味で、非常に使いやすい言葉でもあります。このように考えてみると、社会人側の状況について少し考慮してみなければ、「遊んでいた」というのは言葉通り受け取って良いものかは考える必要があるのではないでしょうか。

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 なお、この社会人と学生の関係という視点については、社会人も学生も「悪い」というつもりは全くありません。しかし、現状の就職活動における説明会、内定者に質疑応答、大学における社会人との交流といったものは、あまりこういった関係の不安定さについて考慮できていないのではないかと感じます。故に、社会人側からすれば本音としてのアドバイスや、学生側からすれば本当に聞きたい事、聞くと意味があることが交換されていないという事については、考慮する必要があるのではないかと思います。

さいごに

 冒頭の社会人の「学生の時遊んでばかりいた」は、どの程度信じて良いのか?については、学生の立場からすればそのまま受け取るのではなく、これをきっかけにコミュニケーションを深める事が大切な事だと思います。

PS:学生と社会人とが対等に話せる様なワークショップとして橋本ゼミでは面接ワークショップを開発しています。また、そのデザインの意図や方法については、小論を寄稿しています。順調にいけば、夏頃には発表できると思います。もし、ご興味あればご笑覧ください。

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この記事を書いた人

産業能率大学情報マネジメント学部 准教授 橋本諭(はしもと さとし)。
研究テーマは、ソーシャルビジネス、人材育成を扱っています。

橋本 諭

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