卒論を書くことは、長いお礼状を書くこと

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最近、学校にいる時の多くの時間は、卒論を指導する事に使っています。もちろん、他にも学祭での研究発表や、通常の授業、学内業務などはある訳ですが、4年生の集大成である卒業研究には少なくない時間を費やしています。特に、学祭において、中間発表を行う事になっているので、そのための追い込みが行われています。

本学では、卒業研究は必修ではありませんので、志ある人が書いています。それ故でしょうか、なかなか骨のあるものが多く、そして土地柄もあるのでしょうかニッチな部分に激しく特化したもの等があり、門外漢な分野の発表を聞いていても、それはそれは勉強になります。

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参考文献として取り上げることが多い1冊より

橋本ゼミ2014年度のテーマ一覧

橋本ゼミでは、現在テーマが確定しているもので10本の研究を行っています。以下のようなものです。

  • 正規雇用と非正規雇用の交じる職場におけるリーダーシップのあり方
  • リフレクションを促進させるリフレクションビデオで撮るべきシーン
  • 小学生を対象とした課外イベントにおけるチームビルディングのあり方とその介入方法
  • 働く人を活かす組織に関する事例研究 組織変革を目指した研修実施者へのインタビュー調査を通じて
  • 地域活性化を目的とした街コンイベントの効果について
  • 体験型ゲームにおける学習科学の知見の応用したコミュニケーションの活性化策について
  • イベントに応じた学習環境の作り方 ー場づくりにおける小物の効果ー
  • グループワークの活性化を目指した授業設計の提案
  • 事例を元にしたソーシャルビジネスの実態に関する一考察
  • 所属の異なるメンバーによる混成型プロジェクトにおける成功・失敗要因の考察 ーワークショップデザインを事例としてー

テーマに出会うご縁

こうして見ると、いろいろなものがあるなと感慨深く思います。
たとえば、「地域活性化を目的とした街コンイベントの効果について」というのは、ある産学連携コンペにおいて提案した事が元になっています。学生達は、ある企業の新規事業として街コンに焦点を当てた商品開発を提案しました。地域活性化を目的とした街コンが各地で行われていることをニーズとして捉え、私たちの専門分野である「学習」をキーとしてワークショップを絡め提案しました。

提案自体は高く評価していただいたのですが、「地域活性化のために街コンが行われている事はわかった。しかし、本当に街コンは地域活性化に役立っているのか?」というコメントを頂いたのです。そこで、卒業研究としては自分達が提案した新規事業の根拠とした事柄について、改めて調査を行っています。

当然のことながら、現在「地域活性化」という新しいようで古いテーマの奥深さにハマっています。新規事業開発というビジネスの話を学習に関する分野として行っていたはずが、何故か地域活性化に辿り着いてしまって訳です。不思議な事ではありますが、学生達はこのテーマにどっぷり興味を持ったようで、勉強、研究しています。

また、これが担当している学生達の仕事にも間接的ながら関係してくるから不思議です。内定先企業は、地域活性化自体をビジネスにしている訳ではありませんが、地域が衰退してしまえばビジネスとして成り立たなくなるような業態だったりするのです。

多分、所謂普通の企業研究では、「地域活性化」に辿り着くことはないでしょう。「ある商品をどう売るか?」を考える際に、売り先があって初めて成立するものであること、売り先が存在するためにはその地域がある程度の活気を持っている事が前提であること、こういったつながりを意識する事が出来ているようです。当たり前といえば、当たり前の話です。しかし、やってみなければわからない事でもあるわけです。

さて、どこまで事実を集め、意味ある考察ができるか。楽しみです。

長いお礼状を書くこと

このように様々な内容を指導していて思うのは、一本一本の研究には、少なからずお世話になった方がいるなと言うことです。たとえば、先ほどの例では企業の方のコメントが重要なきっかけとなりました。また、インタビュー調査を元にした論文を読んでいると、インタビューを受けて下さった方の顔が浮かんでくるのです。「大変お世話になったなあ」と紙を見ながら考えています。他にも、リフレクションビデオの実践でお世話になった方がいらっしゃったなとか、ワークショップの勉強会を開いていただいたお陰だなと感じています。

では、お世話になった方にどんなお礼ができるかといえば、それは論文を書き上げる事。そして、それをお渡しすることではないかな? と考えています。どんなお礼を言うよりも、きちんと書き上げることが大切だと思います。それは、お世話になった方々が何故協力して下さったのかを考えるに、「学生達の成長を思って」くださったのだと考えるからです。ですから、成長の証を示す事が大切です。もちろん、提灯記事を書く訳ではありません。研究ですから、クリティカルに対象に迫る事は不可欠です。今できる最大限の力を使って書き上げる事をしてもらいたいと考えています。

それが、論文を書いているようで実は長いお礼状を書いているようなものかも知れないなと思います。直接お礼を書くわけではありませんが、「私はあなたから頂いたものをこんな形でまとめました」というメッセージになるのだと思います。

なお、橋本ゼミでは年度末に卒業論文をまとめて一冊の論文集にしようと計画しています。どんなものになるのかが楽しみであります。そして、それは結果的に「16年間の教育機会を提供された親御様に対する成果報告」のようなものになるのではないかと考えています。

さあ、これからまた指導に戻ります。夏は終わり、冬の気配を感じつつあります。残された時間はあまり長くないですね。私からの感謝の気持ちは、学生のアウトプットに代えてお伝えしたいと考えています。

追伸

遠方地ではありますが、11月8日9日是非本学の学祭に来ていただきたいなと思います。第36回瑞木祭(湘南キャンパス):産業能率大学
他大学の学祭と比べこぢんまりとしていますが、様々なゼミ展示やサークルの活動報告など、地味かもしれませんが素朴な学生達の等身大の「今やっている事」が溢れています。第36回瑞木祭研究発表
良い意味で、かなりバラバラです。プログラミングもあれば、映像系、スポーツ、会計、心理学、地域貢献等いっぱいありますよ。

特に本ブログを読んでくださっている方に多い、企業の人事担当者の方々などは、面接時の「盛った」学生ではなく、普通の学生を見ていただくと印象が変わるのではないかと思います。

あっ、もちろん私たちの「奪われたCCを取り返せ-アノ伝説ノ妖怪ヲ調査セヨ-」もどうぞよろしくお願いします。来年度以降の卒論の主要な題材になるものです。ご協力くださりますことをお願いいたします。

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューの最新刊11月号のテーマは、「創造性VS生産性」です。創造性の育成についてのテーマは今後ますますホットになっていく気がしています。

創造性自身はもちろん重要ですが、その育成となると簡単ではないでしょう。その時、前提ともいうべき「創造性への自信(クリエイティブコンフィデンス)」はカギを握ると思います。そんなクリエイティブコンフィデンスについて扱っています。皆様のアンテナに少しでも引っかかっていただけると嬉しいなと思います。

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この記事を書いた人

産業能率大学情報マネジメント学部 准教授 橋本諭(はしもと さとし)。
研究テーマは、ソーシャルビジネス、人材育成を扱っています。

橋本 諭

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